森―Ⅱ森―Ⅱ森の道が少しずつ広くなっていく。 心なしか、森の木々はその葉を故意に動かしているように見える。 その葉の先までの全てを使って、懐かしい来客への歓びを表そうとでも言うのか。 さわさわと、葉の擦れる音が辺りに満ちている。 けれど、決して五月蝿くはなく。むしろ心地良い程度の、柔らかな音。 ――― よぉ 空から降ってきた声に、男―ハーメルは天を仰いだ。 「・・・よぉ」 控えめに発せられた声は、掠れもなく澄んでいる。 ――― ひでぇなぁ、ボケちまったか?オレだよ、オーレ! 「・・・・・・あ」 日の光が当たるせいか、わずかに顔をしかめていたハーメルは、ポン、手を叩いた。 「よぉ、ラスライ!!」 今度は迷うことなく、大声で言った。 ふわり、と暖かな風がハーメルの足元に渦を巻くと同時に、そこにはラスライが微笑を浮かべて立っていた・・・と思ったのも束の間の事。 「うぉぅ゛ッ!?」 一瞬前までハーメルの顔があった場所に、今は拳が突き抜けていた。 「あ、危ね・・・ぇなぁ、この野郎ッ」 ヒュッと音をたてて、ハーメルの足が滑り込んで行った場所は、寸前までラスライの体があった場所。 「随分、と・・・ッ遅い、お帰りなこ・・・って!!」 「関係、ねぇ・・・だろッお前、にゃ・ァッ」 「・・・連・絡くら、い、よこせ・・・ってのッ」 「なんで、だよッ」 「常識だろーが、よぉッ」 ただ殴り合っているようにも見えるが、そのスピードは半端なものではない。 動きが目で追えるだけでも「たいしたものだ」といえるほど。常人には何が起こっているのかも分からないだろう。さらに、スピードは鋭さを増す。これほどの速さでは、下手にあたれば、怪我ではすまなくなってしまう。骨折ですめばまだ良い方である。 「は・・・ッ、はぁッ、体・・・鈍ったんじゃねぇの、ハーメル・・・」 「お前も、なぁ・・・ッ」 半刻ほども過ぎただろうか。 ゼェゼェと息をつきながら、二人はその場所に倒れこんだ。 「・・・なん、だよ・お前ら・・・」 寝転んだまま見ると、周りの木々は二人を囲むように、しかし、かなり大きく円を描くようにして、離れたところに移動・・・もとい、逃げていた。 巻き込まれでもしたら、ただ事ではない。いくら木とは言えど、意思はあるのだ。ただのじゃれあいみたいな喧嘩に巻き込まれて死ぬなんて、まっぴら御免だ。 「あ、そうだ!!」 ハーメルががばり、と上半身を起こした。 「?」 「ラスライ、俺行くわ。嬢ちゃんが待ってる!!」 その言葉に、ラスライは思わず呟いた。 「・・・待ってねぇ・・・」 「ん?なんか言ったか?」 ラスライは大きく息を吸うと、よっ、と言って立ち上がった。 「なんでもねぇよ。んじゃ、行くかぁ!ん?」 先に歩き出したラスライの肩に、ハーメルは顎を乗せた。 「何々?付いてきてくれんの?」 「バーカ、森で迷われたら、たまったもんじゃねぇからな。いい迷惑だ」 「つれないねぇ・・・」 ゆっくりと小さくなっていく声に、木々はそろそろと自分たちの持ち場へと戻っていった。 ジャンル別一覧
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