022552 ランダム
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見習い魔術師

見習い魔術師

     森―Ⅱ

森―Ⅱ

森の道が少しずつ広くなっていく。
心なしか、森の木々はその葉を故意に動かしているように見える。
その葉の先までの全てを使って、懐かしい来客への歓びを表そうとでも言うのか。
さわさわと、葉の擦れる音が辺りに満ちている。
けれど、決して五月蝿くはなく。むしろ心地良い程度の、柔らかな音。
――― よぉ
空から降ってきた声に、男―ハーメルは天を仰いだ。
「・・・よぉ」
控えめに発せられた声は、掠れもなく澄んでいる。
――― ひでぇなぁ、ボケちまったか?オレだよ、オーレ!
「・・・・・・あ」
日の光が当たるせいか、わずかに顔をしかめていたハーメルは、ポン、手を叩いた。
「よぉ、ラスライ!!」
今度は迷うことなく、大声で言った。
ふわり、と暖かな風がハーメルの足元に渦を巻くと同時に、そこにはラスライが微笑を浮かべて立っていた・・・と思ったのも束の間の事。
「うぉぅ゛ッ!?」
一瞬前までハーメルの顔があった場所に、今は拳が突き抜けていた。
「あ、危ね・・・ぇなぁ、この野郎ッ」
ヒュッと音をたてて、ハーメルの足が滑り込んで行った場所は、寸前までラスライの体があった場所。
「随分、と・・・ッ遅い、お帰りなこ・・・って!!」
「関係、ねぇ・・・だろッお前、にゃ・ァッ」
「・・・連・絡くら、い、よこせ・・・ってのッ」
「なんで、だよッ」
「常識だろーが、よぉッ」
ただ殴り合っているようにも見えるが、そのスピードは半端なものではない。
動きが目で追えるだけでも「たいしたものだ」といえるほど。常人には何が起こっているのかも分からないだろう。さらに、スピードは鋭さを増す。これほどの速さでは、下手にあたれば、怪我ではすまなくなってしまう。骨折ですめばまだ良い方である。
「は・・・ッ、はぁッ、体・・・鈍ったんじゃねぇの、ハーメル・・・」
「お前も、なぁ・・・ッ」
半刻ほども過ぎただろうか。
ゼェゼェと息をつきながら、二人はその場所に倒れこんだ。
「・・・なん、だよ・お前ら・・・」
寝転んだまま見ると、周りの木々は二人を囲むように、しかし、かなり大きく円を描くようにして、離れたところに移動・・・もとい、逃げていた。
巻き込まれでもしたら、ただ事ではない。いくら木とは言えど、意思はあるのだ。ただのじゃれあいみたいな喧嘩に巻き込まれて死ぬなんて、まっぴら御免だ。
「あ、そうだ!!」
ハーメルががばり、と上半身を起こした。
「?」
「ラスライ、俺行くわ。嬢ちゃんが待ってる!!」
その言葉に、ラスライは思わず呟いた。
「・・・待ってねぇ・・・」
「ん?なんか言ったか?」
ラスライは大きく息を吸うと、よっ、と言って立ち上がった。
「なんでもねぇよ。んじゃ、行くかぁ!ん?」
先に歩き出したラスライの肩に、ハーメルは顎を乗せた。
「何々?付いてきてくれんの?」
「バーカ、森で迷われたら、たまったもんじゃねぇからな。いい迷惑だ」
「つれないねぇ・・・」
ゆっくりと小さくなっていく声に、木々はそろそろと自分たちの持ち場へと戻っていった。




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